奨学金の返済は、自己破産してもチャラにはなりません。正確に言うと―。
- 自己破産すると「本人」はチャラになる
- しかし「連帯保証人」は払わないといけない
- この場合の連帯保証人は「本人」と全く同じ責任を負う
- 連帯保証人も払えない場合は、この人も自己破産するしかない
…ということです。
目次
- 1.奨学金の保証には「2種類」ある
- └ 1-1.「連帯保証人」&「保証人」を1人ずつ立てる
- └ 1-2.「連帯保証人・保証人」の違いは?
- └ 1-3.連帯保証人の責任は、これだけ重い
- └ 1-4.「連帯」とは「本人と同じ」という意味である
- 2.「保証料」を払い「保証機関」に保証してもらう
- └ 2-1.毎月の貸与額の「約3%~5%」
- └ 2-2.公益財団法人が保証する
- └ 2-3.自己破産した場合、借金がチャラになる
- 3.どちらの保証方法がいいのか?
- └ 3-1.保証人の宛てがあるなら、断然保証人がいい
- └ 3-2.機関保証は「誰も頼れない・頼りたくない」人向け
- └ 3-3.そもそも、自己破産するレベルまで行かないように
- 4.まとめ「奨学金を借りてまで、大学に行く意味はあるか」
- 4-1.現時点で「3分の1」の利用者が延滞中
- 4-2.「貧しくなった」というよりも「働き方」が変わった
- 4-3.大学に入るのもいいが、お金を稼いだ方がいい
- 4-4.福沢諭吉は「実学」をすすめた
- 4-5.『学問のすすめ』の口語訳
- 4-6.結論…大学に行くかどうかは、自分の頭で考える
目次
1.奨学金の保証には「2種類」ある
- 1-1.「連帯保証人」&「保証人」を1人ずつ立てる
- 1-2.「連帯保証人・保証人」の違いは?
- 1-3.連帯保証人の責任は、これだけ重い
- 1-4.「連帯」とは「本人と同じ」という意味である
1-1.「連帯保証人」&「保証人」を1人ずつ立てる
保証人を立てるやり方の場合―。
- 連帯保証人
- 保証人
を、それぞれ1人ずつ立てます。それぞれの条件は―。
- 連帯保証人…父母。父母がいない場合は、それに代わる人(親権者)
- 保証人…原則「4親等以内の親族」&連帯保証人と生計が別の人
…となっています。
1-2.「連帯保証人・保証人」の違いは?
連帯保証人・保証人の違いは下の通りです(奨学金以外の借り入れの場合でも、これは同じです)
- 連帯保証人…本人より先に、連帯保証人に請求してもいい
- 保証人…あくまで「本人が完全に返済できなくなった」時だけ、出番
…というものです。連帯保証人はもっと簡単にいうと「本人と同じ責任」ということですね。「他人の借金の保証人」ではなく「その人が借金したのと同じ」扱いになるのです。
1-3.連帯保証人の責任は、これだけ重い
連帯保証人の責任がどれだけ重いか、解説します。まず、専門用語から並べます。
- 「催告の抗弁権」がない
- 「検索の抗弁権」がない
- 「分別の利益」がない
…という風です。それぞれの意味を説明すると―。
- 催告の抗弁権…「先に本人から請求してくれ」と言う権利
- 検索の抗弁権…「先に本人から差し押さえしてくれ」と言う権利
- 分別の利益…「複数の保証人がいた時、責任を負う金額を人数で割る権利
…というものです。こ連絡の権利が「連帯保証人は、全部ない」わけです。つまり―。
- いきなり「本人が払う気なさそうだから、アンタ払ってよ」と言われても文句を言えない
- いきなり「あいつが返済不能になったんで、今からアンタの財産を差し押さえます」と言われても、抵抗できない
- 連帯保証人が何人いようと、「アンタに全部請求するね」と言われたら、払わないといけない
…ということです。「ムチャクチャな」と思われるかも知れませんが、連帯保証人というのは、要は「借りた本人」と同じなのです。そう考えれば―。
- 「先に本人に…」など関係ないし
- 「保証人が何人いようと、全額一人で払うのが当たり前」
…となるわけですね。だって「本人」ですから。
1-4.連帯とは「本人と同じ」という意味である
多くの人は、連帯保証人の「連帯」という言葉の意味を「提携」程度に考えています。だから「本人と同じ責任を負う」なんて、思いもしないんですね。
しかし、ここまで書いた通り、この「連帯」というのは「本人と同一と見なす」という意味なのです。日常生活で使う「連帯」の意味と、法的な「連帯」の意味は、全然違うということですね。
他にも「善意」「悪意」などの意味も、日常と法律の世界では、全然違います。このように「言葉のイメージだけで、法律用語の内容を受け取っては危険」ということを、常に意識しておいてください。
…と、連帯保証人の恐ろしさについての話になりましたが、要は「このような知識を持った上で、学生にも大学入学を考えさせるべき…ということです。
2.「保証料」を払い「保証機関」に保証してもらう
- 2-1.毎月の貸与額の「約3%~5%」
- 2-2.公益財団法人が保証する
- 2-3.自己破産した時、借金がチャラになる
2-1.毎月の貸与額の「約3%~5%」
自分で保証人を探さずに、保証機関に保証してもらう―。ということで、それだけの「保証料」を払う必要があります。保証料の割合は、大体、毎月借りる金額の3%~5%。金額でいうと―。
貸与月額 | 月々保証料 |
---|---|
3万円 | 1181円 |
5万円 | 2246円 |
8万円 | 4657円 |
10万円 | 5822円 |
12万円 | 6986円 |
…という風です。年度によって変わりますが、これは「2015年度」のもの。ただ、2016年以降も大きく変わることはないでしょう。
また、これは「二種」の「大学」のもの。「短大・大学院」や「一種」などの条件で多少変わりますが、これもやはり「大差はない」と考えてください。
2-2.「公益財団法人」が保証
で、どこが保証してくれるのかですが、「公益財団法人」(日本国際教育支援協会)なので安心してください。銀行カードローンやクレジットカードの審査では消費者金融が保証会社をしていることがよくありますが、さすがに奨学金でそれはありません。
(もっとも、別に消費者金融が保証会社をしていたところで、特にマイナスはないのですが…)
2-3.自己破産した時、借金がチャラになる
この「機関保証」の場合、「保証人を立てる」(人的保証)と違って「自己破産すれば、借金がチャラになる」というメリットがあります。正確に言うと―。
- 人的保証の時も、自己破産はできる
- しかし、保証人に迷惑がかかるので難しい
- その点、機関保証だったら「保証機関に迷惑がかかる」だけなのでOK
…ということです。「OK」と言ってはいけませんが、彼らもそのためにお金を取っているわけですから、別にいいんですね。一定の人数が返済できなくなる、というコストも計算した上で、保証料を設定しているのです。
3.どちらの保証方法がいいのか?
3-1.保証人の宛てがあるなら、断然保証人がいい
両親や親権者など、保証人になってくれる人の宛てがあるなら、断然保証人を立てる方がいいです。これは奨学金に限らず、キャッシングでも住宅ローンでも、どんな借金でも共通することです。
お金を借りる場合だけではありません。たとえば賃貸マンションを借りる時なども、やはり「保証人がいる・いない」では、条件に天と地の差が生じます。
大体の体感値としては、「保証人なし」という条件で賃貸物件を借りると、大体「家賃が2倍くらい高くなる」(クオリティ比)と考えてください。
3-2.機関保証は「誰も頼れない・頼りたくない」人向け
そもそも「機関保証」という制度が何のためにあるのか―。これは―。
- 頼れる人が誰もいない
- いるけど、頼りたくない
…という人(学生)のためのものです。人生いろいろ事情があるので、学生の中にもこういう人は結構いるでしょう。そうした学生でも、安心して大学や短大・大学院に通えるように…という制度なんですね。
ということで、「頼れる人がいるなら、頼った方がいい」のです。「自立と孤立は違う」という言葉もありますが―。
- 頼れる場面では、頼る
- 代わりに、誰かに頼られたら、応える
…というのが、総合的に見て一番得する人間関係なんですね。親子・家族の間柄であっても。(もっとも、私は家族であってもあまり連帯保証人になるべきでないと考えているので、保証人になってもらう場合には、それなりのお礼をしますが)
3-3.そもそも、自己破産するレベルまで行かないように
機関保証のメリットは「自己破産した時、誰にも迷惑がかからない」ということですが、そもそも、自己破産するレベルまで返済困難にならないというのが、基本中の基本です。(当然ですが)
ということで、個人的にはこの比較は「そもそも、する必要がない」と思っています。確かに「いざ、そういう状態になった時」のことは、考えた方がいいかも知れません。しかし、やはり誰だって「自己破産するレベル」まで困窮したくはないでしょう。
考えるべきことは「いかに経済的な力をつけるか」であって「自己破産した時の、迷惑の有無」ではないのです。この点、人間はよく「力を入れるべきところ」を間違えがちです。奨学金の保証についても、そういう落とし穴にはまらないようにしてください。
4.まとめ「奨学金を借りてまで、大学に行く意味はあるか」
- 4-1.現時点で「3分の1」の利用者が延滞中
- 4-2.「貧しくなった」というよりも「働き方」が変わった
- 4-3.大学に入るのもいいが、お金を稼いだ方がいい
- 4-4.福沢諭吉は「実学」をすすめた
- 4-5.『学問のすすめ』の口語訳
- 4-6.結論…大学に行くかどうかは、自分の頭で考える
4-1.現時点で「3分の1」の利用者が延滞中
奨学金返済ができない人が増えている―。ということは、多くの日本人が知っているでしょう。日本学生支援機構が公表したデータによると―。
- 「現時点で、返済が遅れている人」が
- 「常に3分の1程度いる」
状態とのことです。「一度でも返済が遅れた人」ではなく「現時点で遅れている人」がこの割合なんですね。
これはかなり衝撃的な事態です。もちろん―。
- 大抵の人は、数ヶ月以内に返済する
- 公的な機関だから遅らせているだけで、そこまで貧乏ではない
ということは確かです。しかし、それにしても「日本人は全体的に、かなり貧しくなっている」という世論は、確かに事実なのでしょう(私の見方は少々違いますが)。
4-2.「貧しくなった」というよりも「働き方」が変わった
今の日本人の経済状態は「貧しくなった」と表現されますが、私の見方は少々違います。
- 働き方が変わった(終身雇用という幻が、ようやく消えた)
- そもそも、今まで日本人は過大評価されていた
- 途上国の人々にも、昔の日本人のようなチャンスが生まれた
…というのが私の見方です。日本人が相対的に貧しくなった=悪いことという論調が多いですが、「世界的に見れば、いい方向に進んでいる」と感じます。
それに、終身雇用や年功序列などの制度は、イノベーションを阻害するものであり、若い力・発想を押さえつける原因になってきました。今のベテラン世代の方々も、若い頃はこうした「硬直的な制度」に対して批判的だったはずです。
ということで、個人的には「日本はいい方向に進んでいる」と感じます。そして、同時にその方向は「大学を出て、みんなで一斉に就職」という道とも、外れている…ということです。
4-3.大学に入るのもいいが、お金を稼いだ方がいい
私が今、こうして金融業の研究のお仕事をいただきながら思うことは、「本当の勉強は、仕事の中にある」ということです。もっと言うなら「仕事の中にしかない」と言ってもいいかも知れません。
ライオンでも鳥でも、動物たちは実に芸術的な動きをし、そのために研ぎ澄まされた肉体を持っています。しかしそれは「趣味」とか「美学」とか「教養」のために身につけたものではないのです。あくまで「生きるため」に自然とそうなっただけなんですね。
- 生きるというのは「食べる」ことである
- しかし、日本人が今いる場所で「農業」をするのは事実上不可能
- もちろん「狩猟採集」も不可能
- ということは「経済活動」に参加するのが「食べる」ために一番合理的である
- 動物は、常に「食べるために一番合理的」な方法を取る
- だったら、人間はまず「お金を稼ぐ」ことに向かっていかなければならない
…というのが私の見方です。そして、これは『学問のすすめ』で、福沢諭吉が言っていることでもあります。
4-4.福沢諭吉は「実学」をすすめた
学校の先生たちは勘違いしていますが、福沢諭吉の『学問のすすめ』の「学問」というのは(教養としての学問」ではなく「実学」のことです。生きるため・稼ぐために必要な学問だけ…ということですね。原文を口語訳すると、下のように言っています。
4-5.『学問のすすめ』の口語訳
学問とは、難しい漢字を知っていたり、難解な古文を読んだり、和歌や詩作を楽しんだりすることではない。そういう「実のない学問」ではない。
これらの文学も、確かに人の心を楽しませることができるし、格調高いものではある。しかし、これまで世間の学者が賞賛してきたほど、重視するべきものでもない。
昔から、漢学者で実生活をうまく運べたものはいなかった。和歌がうまくて、商売が達者だった者もいなかった。
だから、まともな感覚のある町人や百姓は、自分の子供がこういう学問に打ち込むようになると、心配するのだ。
これは当然のことだ。こういう実学から離れた学問ははっきり言って、なんの役にも立たないのだ。
だから今、こういう「実のない学問」は二の次にすべきなのだ。そして、励むべきは実学である。たとえば―。
- 読み書き
- 手紙の書き方
- 台帳の付け方
- そろばんの計算
- 天秤の使い方
…といったものである。他にも―。
- 地理学
- 究理学(物理のようなもの)
- 歴史学
- 経済学
- 修身学
…などをやるといいだろう。それぞれの内容を書くと―。
- 地理学…日本だけでなく、世界の風土を知るもの
- 究理学…天地万物の働きを知るもの
- 歴史学…古今東西の人間・社会のあり方を知るもの
- 経済学…家庭の経済ではなく、社会全体の経済を知るもの
- 修身学…人間のあるべき姿を知るもの
…となる。(以下略)
…というように、福沢諭吉が勧めるのは完全に「成果を出すため」の学問であり、今の学校教育(大学含む)のような「勉強のための勉強」というのは、完全に否定しているのです。
まだ、和歌や漢文のように「本人が楽しくてやっている」なら救いもあるでしょう。しかし、小学生から大学生まで「嫌々」やっている。この状況に何の意味があるのか?―と、福沢諭吉だったら、確実に首をかしげるはずです。
4-6.結論…大学に行くかどうかは、自分の頭で考える
奨学金どころか、大学進学に関して少々否定的な内容になりました。しかし、私は大学を否定したいのではなく、要は自分の進路は、自分の頭で考えようということです。
- みんな大学に行くから
- みんな就活するから
…という理由で進路を選ぶような時代ではない、ということですね。
よくよく考えればそんなのは人間として&生物として当然のことであり、今までの硬直した日本の方が、よほどおかしかったのです。だから、先にも書いたように「日本は(というより世界は)いい時代になった」のです。
5.参考文献&サイト一覧
- 『「連帯保証人」ハンコ押したらすごかった、でもあきらめるのはまだ早い!』
- 吉田猫次郎(2011)ワニブックス
- マネポタ「奨学金は自己破産してもチャラにならない」
- https://www.manepota.com/shakkin/schoolarship.html
- 公益財団法人「日本国際教育支援協会」
- http://www.jees.or.jp/guarantee/index.htm
- 日本学生支援機構「保証制度について」
- http://www.jasso.go.jp/saiyou/hoshou.html
- 日本学生支援機構「機関保証制度について」
- http://www.jasso.go.jp/kikanhoshou/kikanhoshou.html
- SAFETY JAPAN『なぜ「保証人」になってはいけないのか? 連帯保証人や身元保証人などの責任範囲を理解しよう』(日経BP社)
- http://www.nikkeibp.co.jp/article/sj/20120705/314996/
- 青空文庫『学問のすすめ』(福沢諭吉)
- http://www.aozora.gr.jp/cards/000296/files/47061_29420.html