キャッシング・クレジットカードなどで返済できなくなって自己破産した―。という場合、基本的に「財産は全部没収」されます。
しかし「その人が死んでしまうくらい、全部没収する」のはよくありません。そのため、自己破産しても没収されない「自由財産」というものがあります。
そもそも破産しないのが一番ですが、「自己破産を恐れるあまり、ヤミ金からお金を借りるよりもマシ」なので、ここでは「自由財産」について解説します。
(そうすれば、自己破産が怖くなくなり、ヤミ金からお金を借りるという「最悪の事態」を防げるはずなので)
目次
- 1.「自由財産」に含まれるもの
- └ 1-1.生活に必要な財産・道具
- └ 1-2.新得財産(破産後に得た給料・資産)
- └ 1-3.その他の「差押禁止財産」
- └ 1-4.「99万円以下」の現金
- 2.財産の没収以外で、自己破産のデメリットは?
- └ 2-1.特定の職業が、数ヶ月できなくなる
- └ 2-2.ヤミ金からDMが大量に届く
- └ 2-3.5年~10年、新規の借入審査に通らなくなる
- 3.破産法の「自由財産」に関する条文
- └ 3-1.「生活に必要な財産」について
- └ 3-2.「新得財産」について
- └ 3-3.「差押禁止財産」について
- └ 3-4.「99万円以下の現金」について
- └ 3-5.何でこんなにややこしいのか?
- └ 3-6.補足…「66万円」の記述の引用
1.「自由財産」に含まれるもの
- 1-1.生活に必要な財産・道具
- 1-2.新得財産(破産後に得た給料・資産)
- 1-3.その他の「差押禁止財産」
- 1-4.「99万円以下」の現金
1-1.生活に必要な財産・道具
これは例えば、下のようなものです。
- 衣服
- 寝具
- 家具
- 台所用具
- 畳
- 建具
建具(たてぐ)とは、ドア・ふすま・障子・シャッターなどのことです。実は、昔の闇金の取り立ての場合、これらも差し押さえされることが結構あったんですね。
売っても大したお金にはなりませんが「嫌がらせ」にはなりますし、中には「価値のあるふすま・障子」などもあるからです。
…というような建具も含めて「絶対に生活に必要なもの」は、差し押さえされません。
1-2.新得財産(破産後に得た給料・資産)
これは多くの人が勘違いしている部分です。自己破産をすると、その後一切自分の給料・資産を持てないと思う人が多いですが、実は「違うよ。全然違うよ」なんですね(*マーク・パンサーの名言)
自己破産で没収される財産は、「あくまで、破産した時点で持っていた財産のみ」であって、「その後の財産についてはノータッチなのです。
(なので、例えばアメリカの大投資家「ジェシー・リバモア」などは「4回破産」しています)
1-3.その他の「差押禁止財産」
その他「差し押さえ禁止」の財産は、下のようなものがあります。
- その人の「職業」に必要なもの
- その他、生活に必要なもの(学用品・障害補助など)
具体的にどういうものが含まれるのかは、下で詳しく書いています。
1-4.「99万円以下」の現金
当然ですが、生きていく上で最低限の現金は必要です。その金額が―。
- 破産法
- 民事執行法
の2つの法律によって、「99万円」と決まっています。
- 破産法…「民事執行法に書かれた生活費の『1.5倍』にしろ」
- 民事執行法…「生活費は、『66万円』である」
…という風です。「1つにまとめてくれ」と言いたくなりますが、「わざと難しく書く」というのは、法律の鉄則です(庶民が考えることを放棄してくれるようにするためですね)。
*ちなみに「生活費」は正確に言うと「2ヶ月分で、66万円」ということです。
2.財産の没収以外で、自己破産のデメリットは?
- 2-1.特定の職業が、数ヶ月できなくなる
- 2-2.ヤミ金からDMが大量に届く
- 2-3.5年~10年、新規の借入審査に通らなくなる
2-1.特定の職業が、数ヶ月できなくなる
自己破産をすると―。
- 「免責」が下りるまでの数ヶ月間
- 「一部の職業・資格」が制限される
…というデメリットがあります。具体的には、下のような職業・資格です。
- 宅建主任
- 土地家屋調査士
- 旅行業取扱者
- 社会保険労務士
- 証券外務員(銀行員など)
- 信用金庫等の会員
- 警備員
- 測量業者
- 風俗業者
- 卸売業者
他にも「司法書士・行政書士」など難しい仕事を中心に山程あるのですが、「自己破産する人が就いていそうな職業」となると、このあたりです。特にやっかいなのは―。
- 宅建主任…不動産の仕事ができない
- 警備員…多重債務者のアルバイトでよくある
- 卸売業者…やはり自営業で破産する人で、よくある
- 測量業者…これもよくある
- 信用金庫等の会員…これは「利用者」のことなので、信金の利用が、少々面倒になる
…といったものです。これらの職業・資格が制限されるというのが、個人的には自己破産の「一番大きいデメリット」と感じます。
2-2.ヤミ金からのDMが大量に届く
「自己破産をすると、ヤミ金から大量のDMが届くようになる」―というのは、キャッシングの常識です。理由は―。
- 破産者の名前・住所が「官報」に載るため
- 破産者は、普通の消費者金融からもう借りられない
- そして、大抵は借金癖を卒業していない
- だから、ヤミ金に狙われる
…ということです。全員必ずDMの嵐…というわけではありませんが、かなりの確率で「ヤミ金のDMの洗礼」を受けます。
基本的にはDMに引っかからないだけの自制心があればいいのですが、ない人の場合は大変です。この辺は、下の記事で詳しくまとめているので、よかったら読んでみてください。↓
2-3.5年~10年、新規の借入審査に通らなくなる
当然ですが、自己破産すると「ブラックリスト入り」します。自己破産はブラックリストの中でも「最上級に重い」ので、5年~10年の間―。
- カードローン
- クレジットカード
- その他の分割払い
…と、すべての借入審査にほぼ通らなくなります。
例外としてアメリカン・エキスプレスのカード審査は、自己破産から2年程度でも審査に通ったという体験談が、いくつか見られます。
アメックスに限らず、アメリカのクレジット審査というのは、人種差別などの問題をクリアするため「過去の履歴」はあまり気にしないのです。それより「現時点のあらゆる支払いの状況が、どうなっているか」を見るんですね。
「過去に問題があった人物だろうと、現時点の支払能力が明らかに高い」とわかる場合は、それで審査に通る(こともある)わけです。
…というような例外はありますが、日本国内のクレジットカード・カードローンなどは、ほぼ審査に通らない、と考えてください。
(もっとも、自己破産するレベルまで借入超過で苦しんだ場合、しばらく借金の類はしない方がいいと思いますが…)
3.破産法の「自由財産に関する条文」の解説
実は「自由財産についての条文」は、破産法にはほとんど書かれていないのです。では、どこに書かれているかというと「民事執行法」です。
破産法では「34条3項2」に―。
差し押さえることができない財産(民事執行法第百三十一条第三号 に規定する金銭を除く。)
と書かれていて、詳細を「民事執行法に譲る」形になっています。ということで、ここから先の内容は、ほとんどが「民事執行法131条(差押禁止動産)」の内容です。
- 3-1.「生活に必要な財産」について
- 3-2.「新得財産」について
- 3-3.「差押禁止財産」について
- 3-4.「99万円以下の現金」について
- 3-5.何でこんなにややこしいのか?
- 3-6.補足…「66万円」の記述の引用
3-1.「生活に必要な財産」について
これは、民事執行法131条の1項~3項に書かれています。それぞれの内容は下の通りです。
- 1項…生活用具
- 2項…1ヶ月分の食料・燃料
- 3項…2ヶ月分の生活費(66万円のこと)
1ヶ月分の食料というのは―。
- その人によって食べる量が違うのでは?
- 主食がチョコレートだったらどうするのか?
などという疑問もあるでしょう。しかし、この辺は「常識的な範囲」で処理されます。
3-2.「新得財産」について
これは「新得財産は、自由財産とする」という条文があるわけではありません。「破産時に持っていた財産は、差し押さえの対象となる」という文章があるだけです。
これは裏を返せば「破産時に持っていなかった財産」=「新得財産」は、差し押さえされないということになります。
これが「新得財産に関する記述」なんですね。「書かれていないから対象にならない」ということです。逆に言えば書かれていないということは、解釈次第で差し押さえもできるということ。実際、差し押さえの対象となることもあります。
(なお、書かれている場所は『破産法第34条1項』です。下の文章です)
破産者が破産手続開始の時において有する一切の財産(日本国内にあるかどうかを問わない。)は、破産財団とする。
3-3.「差押禁止財産」について
「差押禁止財産」は―。
- 誰の生活にも、必要な道具など
- その人の職業に、必要な道具など
- その他、祭祀・学習・障害の補助に必要な道具など
の3種類が主にあります。で、一つ目の「誰の生活にも必要な道具など」は、先に書きました。2つ目、3つ目について箇条書きしていくと、下の通りです。
「その人の職業」に必要な道具など
- 4項…農家にとっての農具・農産物
- 5項…漁業従事者にとっての、用具・水産物
- 6項…職人にとっての器具・その他の道具(材料など、商品は除外)
「その他の生活」に必要な道具など
- 7項…実印など印鑑類
- 8項…仏像・位牌など
- 9項…家系図・日記・商業簿記など
- 10項…勲章など
- 11項…学校での学習に必要な物(子供含む)
- 12項…発明・著作物でまだ発表されていないもの
- 13項…義手・義足など「障害の補助」に関わる物
- 14項…消防器具など「災害防止」に必要なもの
…という風です。先に書いた「生活に必要な財産」に加えて、これらの道具なども、「差押禁止動産」となっています。(動産というのは、不動産と違い「動く資産」ということです)
3-4.「99万円以下の現金」について
「99万円」というルール(条文)は、どこに書かれているのか。まとめると―。
- 「破産法34条3項1号」で、「民事執行法131条3号」を見ろ、とある
- で、「そこに書かれている金額」の2分の3」にしろ、とある
- そこ(民執法131条3号)に書かれている金額は…
- 「普通の世帯の、2ヶ月分の生活費」とのこと
- で、「それっていくらよ?」と言って民執法を探すと…
- 民執法施行令1条に「66万円」と書かれている
…というのが「大元となるデータの探し方」です。で「2分の3」というのは「1.5倍」のことなので―。
「66万円×1.5倍=99万円」
…ということです。ややこしいですね(笑)。
3-5.何でこんなにややこしいのか?
破産法に限らず、法律はすべて「わざとややこしく」書かれています。大体何で、こんな「RPGの宝探し」みたいに、「66万円」という数字を探すのに、苦労しなければいけないのか…という話ですね。
最初から、破産法・民事執行法のそれぞれの場所に「99万円」とか、せめて「66万円」を明記しておけばいいのです。何でそうしないで、わざわざこうやって難しくするのかというと―。
- 法律が難しければ、庶民は「自分で手続きをしよう」とは思わない
- 弁護士・司法書士などの仕事が増える
ということです。法律の改正は基本的に「国会議員」の仕事ですが、彼らが選挙に当選するためには―。
- お金持ち
- 法律に強い人
の力が必要です。弁護士は「この両方を満たしている」ということで、政治家が権力を守るうえで、なくてはならない存在なんですね。
ということで、立法に関わる政治家たちは「弁護士の利権を守るため、法律をわざと難しくしておく」のです。うがった見方かも知れませんが、多くの知識人が「弁護士は法律を使ったヤクザ」というのは、そういう背景があります。
(もちろん、弁護士・政治家のどちらも、良心的な方の方が多いのはもちろん承知しています。あくまで一部の人たちの話です)
3-6.補足「66万円」の記述の引用
先に説明した「2ヶ月分の生活費=66万円」の部分は、引用すると下の通りです。
民事執行法施行令
(差押えが禁止される金銭の額)
第一条 民事執行法 (以下「法」という。)第百三十一条第三号 (法第百九十二条 において準用する場合を含む。)の政令で定める額は、六十六万円とする。
いかに読みにくいかわかるでしょう(笑)。内容は「2ヶ月分の生活費は、66万円とする」というだけなのに、わざわざ「第百三十一条第三号がどうこう」などと、複雑な文章を追加して、難解にしているのです。
4.参考サイト・文献一覧
- 法務省・法令データベース「破産法」(第34条)
- http://law.e-gov.go.jp/htmldata/H16/H16HO075.html
- 同上「民事執行法」(第131条)
- http://law.e-gov.go.jp/htmldata/S54/S54HO004.html
- 債務整理・過払い金ネット相談室「自由財産の拡張とは?」
- http://www.shakkinseiri.jp/jiyuuzaisan/kakuchou.html
- 自由財産の範囲について、参考
- 弁護士ブログ「破産をしても残しておける財産の解説1~本来的自由財産~」
- http://bengoshi-blog.jp/saimu/honraiteki/
- 「99万円」という数字が、どういう条文から来ているのか、について参考
- クレサラ被害者の会「自己破産後の資格・職業制限一覧」
- http://1st.geocities.jp/mochybooo/shikaku.html
- アイフル元社員の激白@改正貸金業法の悪夢
- http://blog.livedoor.jp/kasakot/archives/55403186.html
- 『サラ金全滅』などの著書がある笠虎崇氏が、「弁護士は法律を使ったヤクザ」という、消費者金融社員の言葉を紹介している
- リチャード・ミッステン(2001)『世紀の相場師ジェシー・リバモア』角川書店
- 人生で4度破産した、リバモアの人生について参考
- 金原猛(2008)『闇金裏物語―俺たちの手口を教えよう』バジリコ
- 家財道具の差し押さえは「売る」より「嫌がらせのためである」という点について、参考