自己破産をしたら、もう借金の問題は一件落着―。と思う人が多いですが、実は自己破産してすぐ、また多重債務状態になるという人が結構います。理由は―。
- 自己破産すると、官報に名前が載る
- ヤミ金はそれを見て、DMを送ってくる
- 自己破産者はまともな消費者金融から借り入れできない
- だから、そういうヤミ金から借りてしまう
…ということです。以下、詳しくまとめます。
目次
- 1.自己破産すると、ヤミ金からのDMが大量に届く
- 1-1.ヤミ金は、官報の「自己破産者」の名前をチェックしている
- 1-2.官報の「自己破産者」は、ネットで見れる
- 1-3.ネット官報の「自己破産者」の見方
- 1-4.官報の「自己破産者」の情報の例
- 2.破産者は、まともな消費者金融から借りられない
- └ 2-1.自己破産の記録は、5年~10年残る
- └ 2-2.情報が削除された後も、審査には通りにくい
- └ 2-3.自己破産した人が、高収入を得るのも難しい
- └ 2-4.借金癖を卒業できていない人が多い
- 3.「貸付自粛制度」では限界がある
- └ 3-1.「貸付自粛制度」とは?
- └ 3-2.工場の寮などで住み込みで働くのもあり
- 4.まとめ…「債務整理」は、始まりに過ぎない
- └ 4-1.もう、借り入れには頼れなくなる
- └ 4-2.個人再生は借金を減額できるが、返済は絶対
- └ 4-3.債務整理自体は、絶対にした方がいい
目次
1.自己破産すると、ヤミ金からのDMが大量に届く
1-1.ヤミ金は、官報の「自己破産者」の名前をチェックしている
実は、ヤミ金はみんな「官報」を毎日チェックしています。官報では毎日「その日の自己破産者」の名前・住所が載っているからです。
「名前だけ」だったらダイレクトメールは送れませんが「住所も載っている」ので、簡単に郵便物が送れてしまうんですね(このルールは改善した方がいいんじゃないかと思うのですが…)。
さらに、ヤミ金の間では「多重債務者のリスト」が共有されています。そのため、そこに「住所・名前」を打ち込んで検索すれば、電話番号や生年月日などもわかるというわけです。
というわけで、官報というのはヤミ金にとって「金のなる木」なんですね。住所の掲載をやめたとしても、おそらく名前と「破産管財人(弁護士)」の名前によって、ヤミ金のネットワークで検索できるので、結局情報源として生き続けるでしょう。
(それでも、弱小ヤミ金を排除するために、住所の掲載を何とかした方がいいような気がするのですが…)
1-2.官報の「自己破産者」は、ネットで見れる
昔の官報は「紙媒体」でなければ見られませんでした。しかし、今ではネット版で誰でも気軽に見ることができます。↓
ネット版官報(国立印刷局)http://kanpou.npb.go.jp/
「無料」で「誰でも」閲覧できるので、ヤミ金にとって「自己破産者の情報」は、昔より格段に入手しやすくなっています。自己破産したら、ヤミ金からのDMが急増するという状況は、しばらく変わらないと思ってください。
1-3.ネット官報の「自己破産者」の見方
ネットの官報で「自己破産者」の情報をどう探すのか―。参考までに閲覧の仕方を書いておきます。
- 『http://kanpou.npb.go.jp』にアクセス
- 以下、順番にクリック
- 「見たい日付」→「号外」(複数ある場合、後の方)
- 「広告→諸事項→裁判所→破産、免責、再生関係」の後ろの番号をクリック
- ↑(クリックするのは番号のみ。上の順で見出しをたどると見つかる)
- 以下、下のような破産者の情報が書かれている
1-4.官報の「自己破産者」の情報の例
「自己破産者」の情報は、下のように書かれています。
平成27年(フ)第11111号
東京都東東京市平和町1-2-3 456号室
債務者 刈田金男(旧姓樫田)
- 決定年月日時 平成27年12月2日午後1時
- 主文 債務者について破産手続を開始する
- 破産管財人 弁護士 鈴木一郎
- 破産債権の届出期間 平成28年1月4日まで
- 財産状況報告集会・一般調査・廃止意見聴取・計算報告・免責審尋の期日 平成28年2月4日午前10時
- 免責意見申述期間 平成28年2月4日まで
東京地方裁判所民事第20部
…という内容です。要するに書かれている内容は―。
- 住所
- 名前
- 破産が決定した日
- 弁護士の名前
- 説明会などの日時
…ということです。この時点では―。
- まだ「自己破産手続きを開始した」だけで
- 「免責が決定した」わけではない
…という点に注意が必要です。つまりまだ借金がチャラになったわけではないんですね。
ただ、よほど悪質な破産者(詐欺師・2度目の自己破産)などでない限り、大抵免責の許可はおります。ということで、「この時点で、ほぼ借金がチャラになるのは決定」ということです。
…というのが「官報に載る、自己破産者の情報」です。では「これによって送られたDMで、なぜ破産者がお金を借りてしまうのか」―。それを説明します。
2.破産者は、まともな消費者金融から借りられない
- 2-1.自己破産の記録は、5年~10年残る
- 2-2.情報が削除された後も、審査には通りにくい
- 2-3.自己破産した人が、高収入を得るのも難しい
- 2-4.借金癖を卒業できていない人が多い
2-1.自己破産の記録は、5年~10年残る
自己破産などのいわゆる「ブラックリスト」の記録は、「個人信用情報機関」で保管されています。そして、自己破産の場合、機関ごとに下のような年数で記録されています。
- JICC(日本信用情報機構)…5年
- CIC(シーアイシー)…5年
- KSC(全国銀行個人信用情報センター)…10年
…という期間です。これらは「最長でこの年数」ということなので、「もっと早く削除される」こともあります。
2-2.情報が削除された後も、審査には通りにくい
こうして5年~10年経過して、自己破産の記録が削除された―。しかし、それでも審査に通りにくいことが多いです。
理由は「その5年~10年の期間、クレジットカードや分割払いなどの利用も、すべてない」ということです。つまり「借り入れの記録が、まったくない」ということですね。
これを「スーパーホワイト」というのですが、これも一種の「ブラックリスト」に近いものとして警戒されます。理由は―。
- 一定の年齢の大人が
- クレジットカードも分割払いも何も使わない
- …ということは、まずあり得ない
- ということは
- この人は「ブラックリスト入りしていた」可能性が高い
…と思われる、ということです。実際、この時代に「クレジットカードを持っていない・使っていない」という大人を探す方が難しいといえるでしょう。特に書籍の買い物などはAmazonのようなネットショッピングが中心になりつつありますし、こういうネット上の買い物は、クレジットカードがあった方が断然便利だからです。
ということで、「5年~10年経って、自己破産の記録が消えても、まだ審査に通りにくい」ということは、往々にしてあるんですね。だから「自己破産した人が、その後にお金を借りるのは、かなり難しい」のです。
2-3.自己破産した人が、高収入を得るのも難しい
このように「お金を借りにくい」ことに加えて、自己破産した人というのは、その後低収入の仕事で働かざるを得ないという弱点があります。
まれに「自己破産しても、高収入の仕事をしている」という人もいるでしょう。たとえば「才能はあったが、運が悪くて事業の資金繰りがショートしてしまった」などのケースです。こういうのは、中小企業では往々にしてあることです。
その場合はいいのですが、普通の人の場合やはり「自己破産した後は、破産する前よりも低収入の仕事に甘んじることが多い」ものです。
というように―。
- お金を借りられない
- しかも、収入も少ない
…というダブルパンチになるんですね。そこに「ヤミ金からのDM」が届くわけです。
2-4.借金癖を卒業できていない人が多い
最後のこれが致命的なのですが、自己破産しても、キャッシング癖を卒業できていないという人が、かなりの数いるのです。「人間は、そう簡単に変われない」んですね。
単純に「借金癖が抜けない」のではなく―。
- 「借金」自体はしたくないけど
- 「ギャンブル・お酒・買い物・風俗遊び」などが癖になっている
- そのためのお金を、つい借りてしまう
…ということが多いのです。これらの願望は「人間の本能」(競争本能・承認欲求などを含む)に根ざしているので、そう簡単には忘れられないんですね。
ということで、意志が弱い人はヤミ金のDMに誘われて、彼らからお金を借りてしまうのです。ただでさえ低収入の自己破産者が、ヤミ金からお金を借りる―、というのはもうどうなるか言うまでもないでしょう。
3.「貸付自粛制度」では限界がある
- 3-1.「貸付自粛制度」とは?
- 3-2.工場の寮などで住み込みで働くのもあり
3-1.「貸付自粛制度」とは?
貸付自粛制度とは「これ以上、自分に融資をしないでほしい」と、全業者に対して依頼するものです。
- 「日本貸金業協会」に申し込む
- 日本貸金業協会が全業者に「通達」を出してくれる
- 加盟業者(普通のキャッシング業者全部)では、最低3ヶ月借りられない
…という風です。もちろん、この期間は延長することも可能です。(一度申し込んだら、少なくとも3ヶ月は絶対に借り入れできない…、ということです)
この制度は、自己破産者でもかなりの人が利用していて、とてもいい制度です。しかし、これでも「ヤミ金のDM」は防げないんですね。ヤミ金などの違法業者は、日本貸金業協会とはまったく関係ないからです。
3-2.工場の寮などで、住み込みで働くのもあり
「貸付自粛制度」も通じない以上、最終的には「本人が、自分の意志でヤミ金をはねつける」しかないわけです。しかし、これが難しいという人もいるでしょう。
そういう自覚がある人の場合、たとえば「どこかの寮で、住み込みで働く」などの方法もあります。そうすれば、官報に載っている住所とは変わるので、郵便物は届きませんし、携帯電話の番号も、変えてしまえば問題ありません。
もちろん、これは「郵便物の転送設定をしない」というのが条件です。これはつまり「重要な郵便物も、旧住所でストップしてしまう」可能性があるわけです。そういう郵便物が届くかも知れない人は、注意が必要でしょう。
しかし、私の経験からいうと、それほど重要な郵便物はあまりないものです。ヤミ金のDMにつられて破産するリスクの方が、確率としては高いので、「自分の意志力に自信がない」という人は、このような引っ越しも、1つの方法と考えてください。
4.まとめ…「債務整理」は、始まりに過ぎない
- 4-1.もう、借り入れには頼れなくなる
- 4-2.個人再生は借金を減額できるが、返済は絶対
- 4-3.債務整理自体は、絶対にした方がいい
4-1.もう、借り入れには頼れなくなる
自己破産などの債務整理をすると、それで「問題が解決した=ゴール」と感じてしまう人が多くいます。しかし、これは残念ながら大間違いです。
もちろん、ヤミ金などに追い立てられて、そのプレッシャーから解放されて、うれしい気持ちを感じたいのはわかります。人間には緊張感からの解放が必要ですから、これ自体は良いのです。
ただ、これまで説明した通り債務整理をしたら、「した後ならでは」のリスクがあるわけです。自己破産以外の債務整理について書くと―。
- 任意整理・特定調停…もう、新たなキャッシングができなくなる
- 個人再生…新たな借り入れができない&短期間で返済しなくてはいけない
…という風です。「新たな借り入れができない」というのは、言うまでもなく「ブラックリストに入る」からです。債務整理をすると、大体―。
- JICC・CIC…5年
- KSC…10年
は、新たな借り入れができなくなります(KSCは銀行カードローン系です)。
4-2.個人再生は借金を減額できるが、返済は絶対
で、もう1つの「個人再生」についてですが、これは―。
- 借金総額が、最大で5分の1程度まで減額できる
- ただし、3~5年で完済しなければいけない
…という決まりがあります。(決まりといっても、5分の1まで減額できるだけでも御の字ですが)
大幅に借金を減額してもらう以上、この期間で完済できなかった場合のペナルティは大きいです。その後も自己破産をする…という選択肢は、事情がある場合は許されるでしょうが、「通常の自己破産より、かなり難しくなる」と思ってください。
ということで、少々脅かしてしまうようですが「債務整理をしたからといって、それで全て解決したわけではない」のです。「勝って兜の緒を締めよ」とか「家に帰るまでが遠足」という学校の先生の名言のように、「債務整理をしたからといって、安心してはいけない」んですね。
4-3.債務整理自体は、絶対にした方がいい
以上、債務整理について「少々厳しい」内容を書きましたが、誤解しないでください。債務整理自体は、間違いなくした方がいいのです。
ただ、「それで油断しないでほしい」ということですね。「油断したら危ない」というのは―。
- 自動車
- 包丁
- 山登り
など、何でも一緒です。「油断したら危ない」=「そのもの自体が悪い」ということではないのです。
要は「油断しなければいい」わけで、債務整理自体は、大いにやっていただきたいと思います。「大いに」などというのも変ですが、日本人は債務整理に対して、そのくらい気軽に構えていいと思っています。
債務整理は「暗いもの」でもないし「難しいもの」でもありません。これだけでキャッシング地獄から抜け出せるのだから、借入超過で困っている方は、ぜひ検討してみてください。
5.参考文献&サイト一覧
- 夏原武(2002)『ザ・闇金融道』宝島社
- 「官報から自己破産者を探す手口」について、参考
- 金原猛(2008)『闇金裏物語―俺たちの手口を教えよう』バジリコ
- ヤミ金が共有しているネットワークなどについて、参考
- 国立印刷局「インターネット版 官報」
- http://kanpou.npb.go.jp
- 日本貸金業協会「貸付自粛制度の手続き方法」
- http://www.j-fsa.or.jp/personal/contact/way.php
- 松谷司法書士事務所「債務整理をするとブラックリストに載る?」
- http://saimuseiri.kabarai-sp.jp/blacklist.html
- JICC・CIC・KSC、それぞれの自己破産の情報登録期間について、参考