消費者金融の金利「実質年率18%」というのは、決して高い金利ではありません。むしろ安いくらいです。これは「だから借りていい」という話ではなく、「貸金業界全体」を考えた場合の話です。
- 人が困った時お金を借りるには、「業者」が存続していなければいけない
- 存続するためには、一定の利益が必要
- その最低限の利益を確保するのに「年率18%」では、むしろ安すぎる
…ということです。これは多くの専門家が指摘していることですが、ここでは『サラ金全滅』(笠虎崇/2010年/共栄書房)の、P.66~67の内容を元に、まとめていきます。
「粗利18%」は、決して高い利益率ではない
粗利というのは「大雑把な利益率」ということです。キャッシング業者の利益率は、とりあえず「年利」で出せます。すべての人に「年率18%」で融資していたら、大雑把な利益率(粗利)は、「年間18%」ということですね。
しかし、実際にはコストがいろいろあるので、これがそのまま利益になるわけではないのです。こうやって「18%」のお金を取った後、下のようなコストを差し引く必要があるんですね。
- 人件費
- 地代(オフィスの)
- 光熱費・通信費
- 広告宣伝費
- 自動契約機などのリース費用
- 法人税
- その他もろもろのコスト
…という風です。これだけのコストを引いていったら「利益がほとんど残らない」というのは、誰でも想像できるでしょう。もちろん多少の利益は残るでしょうが、「せいぜい利益率5%程度」です。
上限金利の引き下げによって、多くのキャッシング業者が倒産した
キャッシングの上限金利が引き下げられたのは「2010年」です(施行されたのが2010年で、公布されたのが2006年)。
で、この2006年の金利引き下げをきっかけに、多くのキャッシング業者が倒産・廃業しました。「こんな利率では利益を出せない」ということで、商売替えしてしまったのです。その一部は、ヤミ金化しました。
経営が厳しくなったのは中小のキャッシング業者だけではありません。プロミス・アコム・アイフルなどの大手ブランドも同じです。『サラ金全滅』のP.65に書かれているデータをまとめると―。
- 消費者金融大手4ブランド(プロミス・アイフル・アコム・武富士)の
- 融資成約率(審査通過率)は
- 2006年4月~6月は『62%』だった
- しかし、2009年7月~9月は『32%』まで下がった
もっと簡単にまとめると―。
- 引き下げ前…62%
- 引下げ後…32%
…になってしまった、ということです。融資できる人数が「半分」になったんですね。
実際、売上もこれに伴って激減しました。これも箇条書きでまとめると―。
- 2006年3月末時点では
- 業界の貸付残高は、『10兆7000億円』だった
- 2009年3月末時点では
- 『6兆6000億円』まで減った
…ということ。つまり、「3年で、4兆円」減ったということです。これは「貸付残高」、つまり「利用者たちが、現時点でまだ借りているお金」の合計です。
というわけで純粋に売上ではありませんが、それでも「貸付残高が60%になった」=「売上・利益も60%になる」ということです。(この貸付残高の一部が利息=売上・利益になるわけですから、当然ですね)
というように、2006年の金利引き下げによって、カードローン会社・ブランドは―。
- 融資できる人数が「半分」になり
- 売上は「60%」になった
わけです。これによって、全盛期はフォーブズの「長者番付」の中で、「日本人の上位10人中、4人が消費者金融の社長」というくらい、絶好調だったキャッシング業界は、一気に衰退してしまいました。
小林節・慶応大学院教授も、同様の指摘
日本財団の理事を務められていた、小林節・慶応大学院教授も、同様に「消費者金融の金利は高くない」「最低限、29.2%程度の、昔の金利を認めなければ、事業が成り立たない」という指摘をされています。
これは、小林教授の著書『国家権力の反乱』(小林節/2008年/日新報道)などに書かれています。この本で書かれている内容も、大体ここまで書いてきた通りです。
- 消費者金融の金利は、そのまま利益になるわけではなく、「粗利」である
- そこからコストを引いたら、他の業界より利益率が高いわけではない
ということです。小林節氏がある地方でタクシーに乗った時、タクシーの運転手さんも消費者金融を利用していたのですが、彼が「高利貸」という言葉を使うので、小林教授が、上のような内容を説明して諭したそうです。
しかし、その運転手さんはまったく聞く耳を持たず、「しかし、あいつら返済が遅れたら『延滞金』なんて取るんですよ。ひどいですよね」と、小林節氏に愚痴を言い始めたそうです。それで教授は「駄目だ、この人」と思い、あとは適当に相手をされたそうです。
このエピソードはほんの一例ですが、消費者金融業界について詳しく調査していると本当に悪いのは、消費者金融ではなく、悪質な債務者や一部のヤミ金だけではないかと思うようになります。
たとえば大手の消費者金融の中では、確かに武富士は会長が有罪判決を受けるなど、問題のある部分が多くありました。しかし、アイフルについては「脅迫テープ」でも無罪が証明されましたし「世間の人が誤解しているだけ」という部分が、非常に多いのです。
「遅延損害金」を取ることは、第4ラテラノ公会議でも認められた
第4ラテラノ公会議というのは、「中世のキリスト教の全体会議」です。それの「第4回」ということですね。1215年に行われています。
そして、キリスト教は長年「利子を取ることを禁止する」方針だったのですが、この公会議で「法定金利の範囲内で利息を取る」ことが認められ、同時に「延滞損害金」をとることも認められました。
これは当時としては画期的なことですが、「遅れたら延滞料がかかる」というのは、レンタルビデオ店などがビジネスとして採用しているだけではなく、中世のキリスト教の公式見解としても「人として正しいことである」と認められたルールなんですね。
小林節氏が「駄目だ、この人」と思ったのは、ただの直感的な印象だけではなく、こういう背景・歴史からも説明できることなのです。こういう金融業の歴史を知っていたら、安易に消費者金融の督促や遅延利率、高いと言われる年率などのルールを、否定することはできないはずです。
キャッシング業者を締め付けると、困るのは低所得層である
実は何時の時代も、「低所得層を助けるために、貸金業者の金利を規制する」という政治が行われてきました。たとえば、有名な江戸時代の「寛政の改革」もそうです。松平定信が行った「江戸幕府三大改革」の1つですね(あと、享保の改革・天保の改革が、残りの2つです).
で、この時も「棄捐令」という「借金棒引き」の布告を出したり、両替屋(貸金業者)の金利を規制したりと、現代の「消費者金融バッシング」のようなことを、松平定信がしました。しかしその結果は―。
- 両替屋が、みんなお金を貸さなくなる
- 生活に困った御家人(武士)たちが、より高利な違法業者で借りなければいけなくなる
という矛盾した結果だったのです。「改正貸金業法によって、ヤミ金利用者が増えた」という現代の失敗と、まったく同じことをしていたんですね。
これは『金貸しの日本史』(水上宏明/新潮社/2004年)に書かれているものですが、この本のまえがきで水上氏は「過去の失敗と同じ轍を、寸分違わず踏襲している」と皮肉っています。「まるでコピペしたのではないか」というくらい、本当に「まったく同じこと」をしているんですね。
遠山の金さんも、幕府の「金利規制」を批判した
遠山の金さんは、正式名称を「遠山左衛門尉景元」(遠山景元)というのですが、彼が1847年(弘化4年)に幕府に送った意見書を、下のリンクで読むことができます。↓
http://www.cwo.zaq.ne.jp/oshio-revolt-m/koda4-109.htm
金利規制を直接批判した部分を引用すると、下の通りです。
元来貸主の目的は利殖であつて、救済ではない。高利の取締を厳重にすれば、貸手は手を縮める。利息を定めて触示したのは金銀不融通の基で失策といはざるを得ない
これを簡単に口語訳すると―。
- 業者の目的は「利益」であって「貧民の救済」ではない
- 高金利を規制すると、彼らは「貸さなく」なる
- そうすると、世間にお金が回らなくなる
- だから、金利を規制したのは「失政」である
…ということです。これは先にも書いた通り、現代の貸金業法・出資法の改正でも、まったく同じ批判がされ、事実その通りになりました。
こうした歴史を見ても、消費者金融の金利「実質年率18%」というのは、全然高金利ではない…ということがわかるでしょう。世間の人は、マスコミに煽られて感情的に「消費者金融バッシング」をする前に、こういう歴史も理解していただけたらと思います。
*上のリンク先の記事の出典は、『江戸と大阪』(幸田成友/1942/冨山房)という、戦時中に書かれた古典的名著です。幸田成友は、有名な文豪・幸田露伴の弟です。