キャッシングの名義貸しというのは、「他人のために、自分の名前で借金する」というもの。たとえば―。
- 俺の名前じゃ審査に通らないから、お前の名義で借りて?
- 調査会社のアルバイトで、5万円もらえるんだけど、やってみない?
というようなものです。前者については何となくわかるでしょう。実際、借金依存症の家族などは、よくこれをやってしまいます。
後者は説明が必要なので、ここでは後者の名義貸しについて、実際にあった事件をもとに説明します。
実際にあった「キャッシングの名義貸し」事件
登場人物は―。
- 被害者A…大学生
- 加害者B…1年上の先輩
という風です。まず、加害者のBが「おいしいバイトがある」と、被害者のAに持ちかけました。
- 消費者金融の自動契約機で、借り入れをするだけ
- 調査会社が、消費者金融の審査の実際を調査している
- 1件借りるだけで3万円のバイト代が出る
- 調査会社が、個人信用情報の借り入れ記録も消してくれる
という内容です。Aは少し不安に思ったものの「借り入れをするだけで3万円」という高報酬につられてしまいました。そして、指定された消費者金融の無人契約機で、早速20万円借り入れしてきます。そして、先輩のBは下のように言います。
- サンキュー。じゃ、これ調査会社に渡しておくから
- お前の個人信用情報の記録も、しっかり消しておいてもらうからな
- あ、お前の口座も教えて。1ヶ月後にそこに振り込まれるから
- 振り込まれたら調査会社から俺に連絡来るから、その時お前に電話するよ
…というやり取りです。確かにお給料なら「1ヶ月後」が当たり前なので、人生経験のない学生だと、これを割と信じてしまうのです。
1ヶ月後、消費者金融から連絡が来る
そして、忘れていた1ヶ月後、消費者金融から被害者の学生Aに連絡が来ます。
- あ、Aさんの携帯でよろしかったですか?
- 今月のお支払いをいただいていないようでしたので…
- え?完済はされていないですよ。20万円全額残っています
Aさんは「そんな馬鹿な!」と思いますが、「調査会社による実態調査」ということは言えないので、とりあえずこの消費者金融に対しては「すみません、来週までにお支払いします」と約束して、電話を切ります。
そして、当然先輩のBに急いで電話しますが、Bは電話に出ません。慌てて大学中の共通の知り合い・友達に電話したら、「他にも、何人かがBの被害に遭っている」とのこと。ここで初めてAは騙されたことに気づくのですが、後の祭りです。
名義貸しは、貸した本人が必ず返済しなければいけない
キャッシングで名義貸しをした場合「貸した本人」にも責任があります。つまり、これはキャッシング会社も基本的にまったく考慮してくれないのです。
これは、契約する時の利用規約にも書かれています。「他人の借り入れに対する名義貸し等ではない」という内容が契約書に書かれていて、「上記の事実に間違いありません」ということを、日付とともにサインしているんですね。
ということで、これは完全に「Aの責任」ということになります。Aは契約書を書く時点で、キャッシング会社に対して「嘘をついた」ということなのです。
この事件を正直に言えば、むしろAも責任を追及されるくらいです。もちろん、キャッシング業者もそこまで鬼ではないので、ある程度の同情はしてくれるでしょう。しかし―。
- 契約時の書類に「名義貸し等ではない」ということを、お客様が約束されたと存じますので…
- ご事情お察し致しますが、返済については当初のお約束通り行っていただく…という形になります
…という風です。もちろん、カードローン会社の言っていることに間違いはまったくありません。「契約時にAが嘘をついた」のは事実なのですから、こればかりはどうしようもありません。
キャッシングの審査・契約では、名義貸しも含めて、このような「虚偽申告」は完全に禁止されています。名義貸し以外の内容でも―。
- 収入を多めに申告する
- 職業を偽って申告する
などはすべて「虚偽申告」として違反行為になるので、注意してください。
名義貸しだけでなく、実印貸しも危険
カードローン審査の名義貸しも危険ですが、日常生活全般での「実印貸し」も非常に危険です。たとえば、年配の野球好きの方なら知っているでしょうが、「江川事件」で悲劇のヒーローとなった、小林繁投手という方がいました。
彼は「実印貸し」で10億円の借金を背負い、そのまま自己破産したのですが、内容をまとめると―。
- 信頼する経営者に、実印を預けていた
- それで、1台数億円する外車を買われてしまった(自分名義で)
江川事件は、江川卓投手の巨人入りのために、「阪神に入団した江川を、1日で巨人にトレードする」というもの。「世紀のトレード」と呼ばれ、物議を醸しました。
そして、そのトレード要員として、巨人のエースだった小林氏が阪神に送られ、同時に多額の「功労金」を渡されたのです。そのお金を目当てに、反社会勢力などの人々が群がってきた…ということですね。
功労金が入ったこと自体は、少なくとも経済的には「良い出来事」だったはずです。しかし、それが「10億円の借金」→「自己破産」という悲劇につながってしまったんですね。
小林繁氏の「詐欺被害」から学べること
この小林投手の詐欺被害から学べることは―。
- 絶対に他人に実印を預けてはいけない
- 絶対に、他人に名義を貸してはいけない
- 絶対に、お金の貸し借りで他人を簡単に信用してはいけない
- マネー・リテラシーがなければ、大金が入っても悲劇につながる
ということです。最後の部分については「宝くじで1等が当選した人」などがその典型的な例でしょう。うまく無難な運用をすれば、あとは軽いアルバイトをするだけで一生生きていけるくらいなのに、1年やそこらで破産してしまい、しかも前より悪い状態になる…というのです。
小林氏の場合、野球選手ということで、そういう世俗に疎かったのは仕方がないでしょう。悪いのはそういう素直な人につけこむ悪人ですが、何はともあれ、そういう悪人が世の中にいる…ということは忘れないようにしましょう。