普通の人が多重債務者になる原因として多いものは「住宅ローンの返済に行き詰まった」というもの。「ギャンブル、浪費」などの原因と違い、これは「真面目なサラリーマン」でも、十分に起きうる事態です。
これについては、アイフルの不動産担保ローンでトップセールスマンとして活躍していた笠虎崇氏(現在、金融ライター)が、『サラ金全滅』(笠虎崇/2010年/共栄書房)の中で、下のように指摘されています。
住宅ローンが多重債務の一番の原因?
笠虎崇氏は、多重債務者が出る原因として、ギャンブルと並んで「住宅ローン」を指摘しています。「住宅ローンがなくならない限り、多重債務者もなくならないだろう」と断言します。
特に笠虎氏の場合は「不動産担保ローン」という、住宅が直接関わる部門にいたので、その言葉は説得力があります。
- 住宅ローンのせいで多重債務になり
- 結局その住宅を売却して、借金を返済した
…という人を、山のように見てきたでしょう。(返済できればまだいいですが、自宅を売り払っても、まだ借金完済できないという人は多いです)
なぜ、住宅ローンが原因で多重債務になるのか?
なぜ、住宅ローンが原因でサラリーマンが多重債務になるのか。流れで書くと―。
- ボーナス払いを多めに設定している
- しかし、ボーナスが出なかった(あるいは少なかった)
- 貯金がないので、消費者金融でお金を借りる
- 次のボーナス払いの月もボーナスが出ず、さらに借りる
- だんだん、返済できなくなる
…ということです。住宅ローンの返済で危険なのは「ボーナス払いに依存する」ということなんですね。会社の業績が悪化して、ボーナスが出なくなったり減額されたら、一気にピンチになるわけです。
すべての人が、そうなるわけではないが…
もちろん、住宅ローンを利用しているサラリーマンが、全てこうなるわけではありません。たとえボーナスがなくなっても―。
- ボーナス払いの金額を少なめにしておく
- 日頃から貯金をしておく
ということができていれば、問題なかったわけです(ボーナスという不確定なものに頼っていたというのが、想定が甘いということなんですね)。
また、仮に消費者金融からお金を借りる事態になってしまっても―。
- 生活を切り詰める
- アルバイトをして副収入を増やす
- 家族が一丸となって働く
- 住宅ローンの返済以外のお金は、絶対に借りない
というポイントが守れていれば、多重債務に転落するほどのことはないのです。なぜ転落してしまうかといえば、上に書いたことの逆で―。
- 生活レベルを落とせない
- アルバイトをしない
- 旦那しか働かない
- 住宅ローンの返済以外でもお金を借りてしまう
…ということが原因なのです。特に最後が大きくて一度簡単にキャッシングすることを覚えると、それに依存してしまう人が非常に多いんですね。
住宅ローン返済のストレスが、理性を衰えさせる
人間は、ストレス状況では正しい判断ができなくなる…ということが、脳科学や心理学でわかっています。これは―。
- 理性的な判断をするのは「大脳新皮質」である
- しかし、ストレスを感じると「大脳新皮質」の働きが低下する
- 代わりに、情動的な「大脳辺縁系」の働きが活発になる」
- 食欲・性欲などの欲望を抑えられなくなる
…ということです。何となく「身に覚えがある」という人が多いでしょう。ストレス状況で「やってはいけないことをやってしまう」というのは、実はこういう科学的なメカニズムがあるのです。
そして、住宅ローンの返済が行き詰ったサラリーマンは、当然ストレスを抱えます。そうして普段以上に判断能力が低下して住宅ローンの返済に関係ない資金まで、消費者金融からキャッシングしてしまうという事態になるんですね。で、どんどん坂を転げ落ちていく…ということです。
こうして「普通の」「真面目だった」サラリーマンが、多重債務者に転落するケースは、枚挙に暇がありません。「自分は大丈夫」と思っている人も、もし住宅ローンを組んでいたら「何らかの事情によって、突然返済できなくなることはないか」と、よく考えてください。
リーマンショックによって、住宅ローンの返済困難者が急増した
特にリーマンショックが起きた2007年~2008年の間に、住宅ローンの返済困難者は急増しました。国民生活センターのデータによれば、住宅ローンの「返済見直し相談」の件数は―。
- 2007年…2000件前後
- 2008年…3000件前後
と、1年で1.5倍に増えた、ということです。もちろん、これは「リーマンショックによるもの」なので、その後もこのペースで増えたわけではありません。しかし、あれ以後日本の景気が回復していない…というのは周知の通りです。
(アベノミクスによって、富裕層が儲かっているということはありますが)
そのため、この2007年~2008年を境目にして「住宅ローンが返済できなくて、キャッシングに手を出し、そのまま多重債務になった」という人は、明らかに増えているのです。自分がそうならないように、くれぐれも注意してください。
(多重債務者の方々の人生を多く観察していると「決して人事ではない」と感じるようになります)
日本人に対して、もっと「金融教育」を徹底するべき
これはほぼ全てのキャッシング業界関係者、知識人が指摘することです。「住宅ローンに安易に頼ってはいけない」ということも含めて、たとえば「連帯保証人と普通の保証人の違い」「白紙委任状の意味」など、基本的な金融・借金に関する知識を、日本人は全然知らないんですね。
宝島社の『実録!取り立て』には、「借金が大嫌いだったために、こういう知識を一切持たず、悪徳商法に引っかかって数百万円の借金を背負った」という20代のOL女性のエピソードが登場します。
彼女のケースは「借金に関する知識が少しでもあれば、簡単に回避できた」ものですが、そういう知識がゼロで「考えるのも嫌い」だったため、次から次へと、騙されてしまったのです。
中国古典に「清濁併呑(清濁併せ呑む)」という言葉がありますが、人間は清らかな世界だけでは生きていけないんですね。必ず「汚い世界」のことも知らなければいけないのです。
この点、犯罪に対する警戒心もそうですが、日本人は何かと無防備すぎます。あまり世の中を疑うことを子供に教えすぎるのもどうかと思いますが、「ある程度」は教えるべきでしょう。
(ちなみに、貸金業法改正に関わった大森泰人・前信用制度参事官は、「学習指導要領に、金融教育を盛り込むことも検討している、と『理解されないビジネスモデル 消費者金融』の中で語られています)
以上、「住宅ローンの返済に行き詰まって、多重債務になる」というパターンについてまとめました。これから住宅ローンを組む方も、すでに組んでいる方も、危機に備える参考にしていただけたら幸いです。